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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)109号 判決 1994年10月03日

原告

五十嵐稔

右訴訟代理人弁護士

横塚章

被告

豊島区長 加藤一敏

右指定代理人

河合由紀男

山田治

吉川彰宏

小井手文雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成五年二月一日付けで原告に対してした停職処分を取り消す。

第二事案の概要

原告は、豊島区の宿日直業務に従事する職員として勤務しているものであるが、右停職処分(以下「本件処分」という。)が、懲戒事由が存在しないのになされたものであり、そうでないとしても行為に比して著しく重いものであるから違法であるとしてその取消しを求めた事案である。

一  事実経過

次の事実は、括弧内に認定した証拠を掲記した事実を除くほかは、当事者間に争いがない。

1  原告は、昭和四七年四月一一日、豊島区に採用され、宿日直業務に従事する巡視として総務部総務課に所属する一般職の公務員(以下「宿日直職員」という。)である。

宿日直職員の勤務は、休日及び閉庁後の夜間における婚姻、離婚、出生、死亡等の戸籍関係の諸届の受理、災害時等の防災緊急連絡、区民からの問い合わせ、苦情等の受付け、休日における郵便物の受理などを主な内容としている。

2  宿日直職員の勤務の割り振りその他勤務条件については、職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規程(昭和五〇年九月二〇日豊島区訓令甲第二六号。以下「勤務規程」という。)に定められており、宿日直職員の勤務時間は、労働基準法三二条の二に基づく変形労働時間制を採用し、三週間を通じ、一週間について平均四〇時間勤務するものとし、その割り振りは総務部長が定めるものと規定され、また、睡眠時間について、五時間を超えない範囲で、その時限は総務部長が定めると規定されている。総務部長は、この規定に従い、三名の宿日直職員を交替で宿直させる宿直員一名体制(宿泊員一名)による勤務ローテーション表を作成して具体的な勤務の割り振りを定めるとともに、睡眠時間については、二〇時間以上の宿直勤務の場合は三時間、それ以外の宿直勤務の場合は二時間三〇分と定め、それぞれの時限を定めている。具体的には、睡眠時間は、平日、祝日及び年末年始の宿直については午前二時三〇分から午前五時まで、土曜日及び日曜日の宿直については午前二時から午前五時までであり、平日の泊まり明けの退庁時限は午前一〇時である。なお、完全週休二日制実施前の平成四年六月三〇日以前については、開庁土曜日の出勤時限は午前九時三〇分であった(<証拠略>)。

3  原告は、以前から現行の勤務形態における平日の泊まり明けの勤務が午前一〇時までと定められていること、睡眠時間が二時間三〇分と定められていることなどが不当であると主張していた。これらの点について、平成二年七月以降、原告と総務部長及び総務課長との間で数回にわたって話合いが行われたが、原告の主張が容れられなかったため、原告は、平成三年五月二二日、上司である総務課長(事務取扱)堀田徳夫に対し、現行の勤務形態に従うことはできないので、勤務時間については次のとおり任意に対応する旨の文書を提出した。右文書には、(一)(1)開庁土曜日の出勤時限午前九時を午前一二時とすること、(2)平日泊まり明けの退庁時限午前一〇時を午前九時とすること、(3)睡眠時間二時間三〇分を五時間とし、その時間帯を午前零時から午前五時とすること、(二)右三点につき変更に伴う時間休暇を届け出ない旨が記載されていた。これを受け取った堀田総務課長は、原告に対し、そのような身勝手な勤務は認められないから勤務の割り振りに従って勤務するようにと指導したが(<証拠・人証略>)、原告は、自分の意思で行動する旨を述べ、そのまま立ち去った。

その後、原告は、勤務の割り振りに従わず、右文書のとおり、平成三年五月二四日及び同月二七日の宿直において午前零時から午前五時まで睡眠をとり、同月二八日の泊まり明けには無断で午前九時に早退しようとした。そのため、堀田総務課長は、同日、改めて原告に対し、自己の身勝手な判断による勤務は法三二条の上司の職務上の命令に従う義務に違反するものであると口頭で警告したが(<証拠・人証略>)、原告は、その後も同様の勤務を繰り返した。原告は、平成三年一二月分から平成四年三月分までは給与全部について受取りを拒否し、平成三年一二月二四日、被告に対し、給与の減額処分をするよう通知したところ、被告は、平成四年四月一〇日、職員の給与に関する条例に基づき、原告の例月の給与から実際に勤務しなかった時間に相当する給与合計六六万一七〇八円を減額した。

なお、原告は、宿直の勤務時間の設定が宿直規程に照らして違法であり、それに伴う公金支出も違法であるとして、平成四年三月二一日、地方自治法二四二条一項に基づき住民監査請求を行った。その請求の過程で、原告の右のような勤務形態が公になった。

4  原告は、その後も堀田総務課長ら上司の再三にわたる指導にもかかわらず(<人証略>)、同様の勤務を続けたため、堀田総務課長は、平成四年五月一六日、原告に対し、勤務の割り振りに従って勤務すべきことを命じる職務命令書を交付したが、原告は、この職務命令を無視し、同様の勤務を改めなかった。そこで、総務部長鈴木敏万は、同年七月六日、原告に対し、遅参及び早退を改善するよう勧告する旨記載した文書を読み上げて改善勧告を行ったが(<証拠・人証略>)、原告は右文書の受領を拒否した上、その後も同様の勤務を繰り返した。

平成四年五月一六日から同年一二月二四日までの間、原告の無届遅参(午前一二時出勤・二時間三〇分遅参)は二回、無届早退(午前九時退庁・一時間早退)は合計五二回に及んでおり、夜間勤務時間の不従事は平成四年五月一六日から同年一二月三〇日までの間、合計七〇回(午前零時から睡眠・二時間ないし二時間三〇分不従事六九回、午前一時三〇分から睡眠・一時間不従事一回)に及んでいる(<証拠・人証略>)。

5  被告は、原告が職務命令書の交付、改善勧告にもかかわらず、遅参早退等を繰り返したとして、これが地方公務員法(以下「法」という。)三二条に定める上司の職務上の命令に従う義務、法三三条に定める信用失墜行為の禁止及び法三五条に定める職務に専念する義務に違反し、法二九条一項一号、二号の懲戒事由に該当するとの理由により、平成五年二月一日、原告に対し、一五日間停職を命ずる旨の懲戒処分(本件処分)をした。

二  争点

本件処分が以下の点において適法かどうかが、本件の争点である。

1  原告が法三二条(上司の職務上の命令に従う義務)に違反する行為をなしたといえるか。

(原告の主張)

豊島区における具体的勤務時間及び睡眠時間の規定は、次のとおり、都条例及びこれにかかる通知に違反するばかりでなく、内容的にも著しく合理性を欠き、違法無効であるから、上司の職務命令自体が違法であって、原告がこれに服する義務はないというべきである。

(一) 東京都の職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例(昭和三八年東京都条例第八三号)では、睡眠時間の付与に当たっては、一昼夜継続勤務の場合、四時間を下らず七時間を超えない範囲で、夜間に与えることとなっていた。ところが、昭和四七年四月一日から施行されたその改正条例によると、睡眠時間について、職務の性質により通常勤務によれない特別の勤務に服する職員、例えば巡視の業務に従事する職員については、一週間の正規の勤務時間を考慮して、一勤務最高八時間の範囲内で睡眠時間を付与することができることとなった。この改正の趣旨は、職員の勤務条件の向上を図るとともに、勤務時間等の制度が事務、事業の遂行の実態に適応できるようにすることにあるから、主眼は、むしろ睡眠時間等を十分取れるようにして勤務条件を向上させることにある。

したがって、特段必要もないのに、従来四時間あった睡眠時間を平日の宿直につき二時間三〇分に減少させたのは、都条例に違反している。

(二) 豊島区の規定する職員の睡眠時間は、他の区の職員のそれと比較すると、著しく短い(例えば、荒川区九時間、世田谷区八時間、渋谷区七時間三〇分、千代田区・中央区・文京区・台東区・墨田区・大田区・中野区・北区五時間など)。睡眠時間の規定の仕方について、八時間以内で区に一定の裁量権があるとしても、他の区の取扱いと対比すると、豊島区の制定した睡眠時間一日二時間三〇分又は三時間の規定が裁量の範囲を著しく逸脱していることは明らかである。

(三) 平日二時間三〇分、土曜日及び日曜日三時間の睡眠時間が人間の生理的な欲求に著しく反することは経験則からも明らかである。また、実際に区役所への電話や訪問者があれば、宿直職員は睡眠時間内であっても起きて対応している。睡眠時間を午前零時から午前五時までと設定したとしても、午前零時から午前二時三〇分又は午前三時までの電話や訪問者はそれ以降の時間帯と同じ程度しかないのであるから、その都度起きて対応すれば済むことである。したがって、睡眠時間を二時間三〇分又は三時間に限定する合理的な理由はない。

(四) 原告以外の宿直職員も右睡眠時間を遵守しておらず、午前零時ごろには睡眠をとっているのが実態であり、この点からも、右睡眠時間の規定が著しく不合理であることが明らかである。原告は、この不遵守の実態が公務員としてのモラルに反するものであるとして、豊島区に対して実態調査等の申入れを何度もしているが、豊島区はこれを実施していない。さらに、原告のように公務員のモラルを問題にする者がかえって不利益に取り扱われる結果をもたらしている点でも、右睡眠時間の規定は不合理である。

(五) 現行のような勤務時間、睡眠時間の規定は、本来考慮すべきでない事情を優先して、勤務時間の具体的割り振りを決めており、作成の根本理念において違法である。すなわち、正規職員三名につき三週間に二回の土、日曜日の休日を確保し、なおかつ一日の勤務時間について通常の職員との関係上、勤務時間を余り長時間にできない事情があることから、一日の形式上の勤務時間を長くしているのである。そのため、一般職員の勤務時間との重なりを不要なまでに長くとり、かつ、睡眠時間を短くせざるを得ないのである。

(六) 平日の泊まり明けの引継時間は、三〇分あれば十分である。したがって宿日直職員の午前九時から午前一〇時までの勤務時間は、事実上必要がない。ことに、宿直の機能は、昼間職員の本来的な業務を夜間等の右通常の勤務がないときに必要な範囲で一時的、暫定的に代行することにあり、引継時間を除いて昼間一般職員との勤務時間を併存させる必要はなく、これを併存させるのは不必要な人件費を費消するものであって、違法である。仮に三〇分以上の引継時間が必要な場合には、残業扱いにして対応すれば済むことである。

(被告の主張)

豊島区における宿日直職員の勤務時間及び睡眠時間の定めは適法である。すなわち、

(一) 豊島区は、昭和五〇年三月一五日、職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例(昭和五〇年豊島区条例第二四号)を公布し、同年四月一日から施行しており、同日以降、豊島区職員については、原告主張の都条例ではなく、豊島区の右条例が適用されるのであって、原告主張のように右都条例及びこれにかかる解釈等の通知が適用される余地はない。

(二) 宿日直の体制は、各区によって異なっており、単純に比較することはできない。従来どおり一般事務の男子職員が輪番制で宿直業務を行っている区(渋谷区)、非常勤職員を宿直業務に当てている区(荒川区外三区)、宿日直専任の職員を宿直業務に当てている区(豊島区外一七区)、その中でも、巡視に宿日直業務を行わせている区と豊島区同様宿日直業務のみを行う職員を置いている区がある。また、それぞれの区により一夜に勤務につく者の数、ローテーションの組み方等多様な要因が錯綜しており、規定上の睡眠時間を単純に比較しても全く意味がない。

(三) 睡眠時間をいつ、どの程度付与するかについては、当該職種の業務内容及び全体の勤務の割り振りから職員の健康に与える影響を考慮し、疲労回復に必要な範囲において任命権者の合理的な裁量に委ねられている。宿直職員の場合、宿直業務は、その職務の内容からして生命、身体にかかわるような危険な業務ではなく、肉体的な疲労の蓄積度もさほど重いものであるとはいえない。また、全体の勤務の割り振りにおいても、泊まり明けから次の勤務までの間隔が長く(三〇時間三〇分)、その間に勤務を要しない日がある場合も多く、相当な時間的余裕が設けられている。このような勤務形態において、睡眠時間を三時間程度しか付与しないこととしても、健康を損なうおそれはほとんどなく、次の勤務までの間に疲労の回復を図ることが十分可能であるから、不当に過酷な労働を強いるものではなく、何ら裁量権の逸脱はない。

(四) 仮に豊島区の宿日直職員の睡眠時間の規定が職員により遵守されていないとしても、合理的な規定が遵守され、不合理な規定が遵守されないという関係が常に成り立つわけではないから、そのことから右睡眠時間の規定が合理的でないということはできない。

(五) 具体的な勤務時間の割り振りは、労働基準法に定められた労働時間の範囲内において、当該職務の性質、職務内容、具体的な勤務の必要性等を考慮して任命権者の合理的な裁量において定められるものであり、当該勤務の割り振りによって著しく過酷な労働を強いられるなどの合理性を欠くような場合でない限り違法の問題は生じない。

(六) 平日の泊まり明けの退庁時限を午前一〇時と定めた主な理由は、単に戸籍係の諸届を主管課に引き渡すのみならず、来庁、電話等によって受け付けた区民からの問い合わせ、苦情、その他の情報を適切に主管課に伝達するためであって、特に近年、区民等からの照会事項は複雑多岐にわたり、区の業務全般に及ぶことが想定されるため、これらの照会事項を主管課に遺漏なく引き継ぐことを期待して設定したものである。したがって、平日の泊まり明けの午前九時から午前一〇時までの時間は不必要な時間ではなく、その割り振りには合理性が認められるから、裁量権を逸脱したものではなく、何ら違法性はない。

2  原告が法三三条(信用失墜行為の禁止)に違反する行為をなしたかどうか。

(原告の主張)

豊島区は、本件の勤務体系の問題を広報に掲載するなどの方法で広く区民に知らせようとする意思はなく、むしろ隠蔽するかのような態度をとったのであるから、広く区民が本件の問題を知ったとはいえない。

(被告の主張)

原告が住民監査請求を行った際、その審理の中で原告の不正常な勤務態度が明らかにされ、平成四年四月二八日、監査の結果が公表されるに至って、原告の勤務態度は区議会議員をはじめ一般区民の知るところとなった。さらに、同年一〇月一四日の定期監査の際には、原告を監督すべき立場にある総務部長及び職員課長が、原告の勤務態度について監査委員及び区議会議員から厳しい指摘を受けたのであり、原告の勤務態度が区民の公務員に対する信用を著しく失墜させたことは明らかである。

3  原告が法三五条(職務専念義務)に違反する行為をなしたかどうか。

(原告の主張)

本件は、原告が一定の勤務時間に勤務していると装いながら、職務専念義務を果たしていない事案ではなく、職務時間内に職務を行うことそのものを拒否した事案であるから、職務専念義務を問題にすること自体が誤りである。

(被告の主張)

原告は、上司の再三にわたる指導を無視し、職務命令にも従うことなく無断早退等を繰り返したのであるから、このような原告の行為が職務専念義務に違反することは明らかである。

4  本件処分が原告の行為に比して著しく不利益を課するものとして違法であるといえるかどうか。

(原告の主張)

原告に対する上司の命令、指導の不当性を捨象しても、原告の上司は、睡眠時間の規定が実際には遵守されていない事実を原告が指摘して改善を求めるなどしても、これを無視するなどして、原告にだけ問題のある規定を遵守させようとしたのであって、原告の行為はこのような従来の経緯からやむにやまれずなされたものであるから、本件処分は、行為に比して著しく不利益を与えるもので、違法というべきである。

(被告の主張)

上司の指導及び職務命令を無視して無断早退等を繰り返したことは極めて悪質であり、原告を一五日間の停職としたことは処分の選択としても相当であるから、本件処分は適法である。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  前記第二の一の事実によると、原告が上司の職務上の命令に従わなかったことは明らかである。そこで、問題は、右職務命令が違法無効かどうかの点にある。

2  この点に関し、原告は、先ず、東京都の職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例(昭和三八年東京都条例第八三号)の改正条例(昭和四七年四月一日施行)の適用があることを前提とする主張をしているが、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によると、豊島区は、昭和五〇年三月一五日、職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例(昭和五〇年豊島区条例第二四号)を公布し、同年四月一日から施行しており、同日以降豊島区職員については、右都条例ではなく、豊島区の右条例が適用されることが認められるから、右主張はその前提を欠き、採用することができない。

3  原告は、豊島区の定める職員の睡眠時間が他の区と比較すると著しく短いもので、裁量の範囲を著しく逸脱していると主張している。しかし、他の区の宿日直の体制、すなわち、被告の指摘するような一夜に勤務につく者の数、ローテーションの組み方等が豊島区のそれと同じように定められていると認めるに足りる証拠はなく、かえって、(人証略)からは、各区が独自の立場で定めていることが窺われる。そうすると、豊島区と他の区について単に規定上の睡眠時間の長短を比較しても意味がないというべきである。

4  原告は、平日二時間三〇分、土曜日及び日曜日三時間の睡眠時間が人間の生理的な欲求に著しく反すると主張しているが、証拠(<証拠略>)によると、泊まり明けから次の勤務までの間隔は少なくとも三〇時間三〇分あり、さらに、その間に勤務を要しない日がある場合も多いこと(三週間に合計五日)が認められるのであるから、原告主張のようにいうことはできない。また、原告は、実際に区役所への電話や訪問者があれば、宿直職員はその都度起きて対応すれば済むと主張しているが、勤務規程によれば、睡眠時間を五時間を超えない範囲でどの時間帯にどの程度付与するかは、合理的な裁量に委ねられているというべきであって、右程度をもって裁量の範囲を逸脱した不合理なものとすることは到底できない。

5  原告は、原告以外の宿日直職員も右睡眠時間を遵守していないと主張しているが、本件において、これを認めるに足りる的確な証拠はないし、仮にそのような事実があったとしても、そのことから右睡眠時間の規定自体が著しく不合理であると結論することはできない。また、原告は、公務員のモラルを問題にする者が不利益に取り扱われる結果となっている点でも不合理である旨主張しているが、前記のとおり、本件処分はそのようなことを懲戒事由とするものではないから、理由がないというべきである。

6  原告は、現行の勤務時間、睡眠時間の規定が本来考慮すべきでない事情を優先して、勤務時間の具体的割り振りを決めている点で違法であると主張しているが、そのようなことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(<証拠・人証略>)によると、睡眠時間につき、平日二時間三〇分、土曜日及び日曜日三時間と定めたのは、単に勤務時間として週四二時間(週四〇時間制以前)を確保するというためではなく、勤務明けから次の勤務までには時間的余裕が相当あることも含めて総合的に判断した結果であることが認められる。原告の主張は理由がない。

7  原告は、平日の泊まり明けの午前九時から午前一〇時までの勤務時間が不要であるとしているが、(人証略)によると、引継ぎの内容は、戸籍関係の諸届、郵便物、区民の持参した文書を主管課に引き渡したり、電話による問い合わせ等を主管課に引き継ぐことなどであるが、区民からの問い合わせ等は多種多様なものがあり、主管課と打ち合わせてこれらの事項を遺漏なく正確に引き継ぐためには時間を要することも考えられ、午前一〇時という退庁時限はそのことをも考慮して設定されたものであることが認められるのであり、右退庁時限の定めが裁量権の範囲を逸脱したものということはできない。

8  以上のとおりであるから、原告の主張はいずれも採用することができない。

二  争点2について

前記第二の一の事実によると、原告は、豊島区の宿日直職員として遵守すべき、総務部長が定めた勤務の割り振りや上司の職務命令を無視して敢えてこれらに従わなかったものであり、その職の信用を傷つけたものといわなければならない。因みに、前記第二の一の事実と証拠(<証拠・人証略>)によると、原告は、平成四年三月、宿直の勤務時間の設定は東京都豊島区役所宿直規程五条一項に照らして違法であり、それに伴う公金支出も違法であると主張して地方自治法二四二条一項に基づき、住民監査請求を行ったこと、その審理の中で、原告の前記勤務態度が明らかにされ、同年四月二八日、監査の結果が同条三項により公表されたことにより、原告の勤務態度は区議会議員や一般区民の知るところとなったこと、その後の定期監査の際、総務部長及び職員課長が、原告の勤務態度について、監査委員から指摘を受けたことが認められるのであり、これらの事実からみても、勤務の割り振りの定めに従わない原告の勤務態度が区民の宿日直職員に対する信用を失墜させたことは明らかである。

三  争点3について

前記第二の一のとおり、原告は、勤務時間の一部につき勤務することなく、睡眠、無断遅参早退を繰り返したのであるから、原告のこのような行為が職務専念義務に違反することは明らかである。原告は、職務そのものを拒否したのであるから、職務専念義務違反にはならないと主張しているが、そうだとすればより一層違反の度合いが強いというべきであって、原告主張のような見解は到底採用することができない。

四  争点4について

前記第二の一の事実によると、原告は、上司の職務命令及び指導を無視して無断早退等を繰り返したものであり、事案として軽微なものとはいえないから、一五日間の停職とした本件処分が裁量の範囲を逸脱したものということはできない。

五  まとめ

以上の次第で、本件処分は適法であるから、原告の本件請求は理由がない。

(裁判官 小佐田潔)

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